漢 詩

秋入故山村景幽   金波渡野暮鐘流
光明寺畔立塋域   往時茫々不耐愁
   昭和二十七年仲秋帰郷偶成  淳一郎

秋故山に入れば村景幽(のどか)なり  金波野を渡り暮鐘流る
光明寺畔塋域に立つ   往時茫々愁に耐えず


※秋故郷に入れば村の景色はのどかで  稲穂は黄金に波打ち入りあいの鐘が静かに流れる
  光明寺の境内に立って生家を眺め  感無量、幼少年時代の思い出は限りなし
此地吾桑梓成年早出関  江湖流寓久四十歳今還
風物猶作旧追懐不尽    環鬢辺霜既冷孤鶴鳴松間
   昭和丑辰仲秋帰郷所感幸賦

此の地吾が桑梓(そうしん)成年早く関を出ず  江湖流寓すること久し四十歳今還る
風物猶(なお)旧を作す 追懐して尽きず  環鬢(かんびん)の辺(あたり)霜既に冷たし
孤鶴松間に鳴く


※この地はわが故郷 成人前に家郷を出でて四十年ぶりの帰郷であるが
   ふるさとの風物は昔と変わらず なつかしさつきない  しかし私はもう白髪となって
  孤独の情切々である  それは一羽の鶴が松の枝で鳴いている姿とおなじである
暮秋逢野叟  畦上互尋名
別四十年寛  共霜鬢悲生
    帰郷所感

暮秋野叟(やそう)に逢う  畦上(けいじょう)互いに名を尋ぬ
別れて四十年寛(ひさ)し  共に霜鬢(そうびん)生するを悲しむ


※秋の夕ぐれ野良から家路に急ぐ老人に出会い 畦上たがいに名を尋ねると
   それは幼な馴染みの友だった 別れて四十年の久しい間に共に白髪となってわびしく思う
両叟昔紅顔  携遊山又川
流畄別南北  不易只郷関
    昭和廿七仲秋郷所感

両叟昔は紅顔  携えて遊ぶ山又川
流畄して南北に別る  易(かわ)らざるは只郷関


※二人の老人 昔は紅顔の少年であった  つれ立って山や川に遊んだ
   おたがいに南北に別れてくらしたが  矢張りふるさとの味わいは変わらず万感無量である


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